大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和37年(ネ)209号 判決

そこで、控訴人及び被控訴人の間には報酬について何等の特約が存しないことになるが、弁護士の仕事は報酬を伴う業務であるから一般に報酬について明示の特約がない場合でも特段の事情がない限り相当の報酬を支払うのが当事者の意思であると推認すべく、その額の定め方については、原審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人の所属弁護士会の定めるところによるとするのが当事者の意思であると推認すべきところ、成立に争がない甲第八号証の一、二によれば茨城弁護士会においては当時茨城弁護士会報酬等基準規程(会規第四号)(昭和二五年一月施行)を制定し、弁護士の報酬は右規程に依るべきものとしており、民商事につき報酬の最高額を定め、なお依頼者が弁護士の責に帰することのできない事由で弁護士を解任し弁護士に無断で訴の取下、和解その他の行為をして依頼した事件を完結させる等のことをしたときは、弁護士はその謝金の全額を請求することができるものと規定していることが認められこの謝金全額請求の定めは民法第六五一条第二項の法意に鑑み有効と解せられるから、控訴人が受けるべき報酬は右規定に依るべきであり、前認定のように被控訴人に無断で自ら前記各訴訟事件を完結させた本件に在つては、控訴人はその報酬の全額を請求することができるものというべきである。

控訴人は昭和三一年一一月中に茨城弁護士会所属弁護士間で申合せをなし、同日以降前記茨城弁護士会報酬等基準規程が改正される迄の間(右規程は昭和三六年三月一九日改正された)日本弁護士連合会制定にかかる報酬等基準規定の定めるところに依ることとしたから、その間は本件当事者においても右報酬等基準規程の定めるところに依る意思がある旨主張するが、仮にその様な事実があつたとしてもそのいずれによるとしても結局控訴人が謝金として金二〇万円だけを請求している本件においては、その額の当否を判断するにつき結果を異にすることはない。

ところで右弁護士会の規程は民事及び商事事件については弁護士が受くべき報酬の最高限度を定めているだけであるから、具体的事件において報酬額をいかに定めるのが相当であるかは個々の場合につき地方の事情、事件の難易、軽重、依頼者の社会的地位及び資力並びにその受ける利益等を参酌して定めるべきところ、前記一及び二掲記の諸般の事情に当審における証人北島義三郎の証言及び鑑定人北島義三郎の鑑定の結果を併せ考えれば、控訴人の請求し得べき謝金の額は弁護士会の規程の定める最高額の範囲内において、被控訴人が右各事件完結の際現実に受けた利益二一五万円(被控訴人が前記示談により受けた示談金二一五万円をもつて被控訴人が現実に受けた利益とみる)を基準とし、その一割に当る二一万五、〇〇〇円をもつて相当とするものであることが認められる。(控訴人の受任事件は三件であるが、それらは何れも同一係争物につき各方面から係争されているものであるからこれを一括して謝金を算定する。)

よつて、被控訴人は控訴人に対し、右同額の謝金を支払う義務があるものといわなければならない。

(小沢 池田 中田)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!